生存戦略研究所

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書評「イノシシから田畑を守る おもしろ生態とかしこい防ぎ方」

time 2016/09/03

書評「イノシシから田畑を守る おもしろ生態とかしこい防ぎ方」

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今日は読書感想文でございます。

お題はこちら
「イノシシから田畑を守る おもしろ生態とかしこい防ぎ方」

イノシシの研究をしてきた方が書いた本です。

色々と驚き、また勉強になりました。

サルにひけを取らない賢さ

著者が言うには
「サルのように指で画面を触ったり椅子に座ったり出来ないだけの事で、実はサルにひけを取らない賢さ」

実験の手順や意味も理解

イノシシ実験装置
答えを間違って餌が出て来ないのを確認すると、イノシシは自分から待機室に戻っている。

つまり「当たれば餌がもらえて、外れればもらえない。けれど、また待機室に戻って待っていれば次のチャンスにトライできる」事をわかっているのだ。

スゲエ...

記憶力

しかも上記の実験の後、一度屋外の飼育施設に移し半年後、再び装置に入れて実験を行っても実験の手法をすべて覚えていたとの事。

また、実験後、イノシシ牧場に引き取られていったイノシシを1年後に見に行ったら、見知らぬ人間を見て暴れるイノシシ達の中で一頭だけ身動きもせず著者を見ているイノシシがいたという。
以前の名前を呼びかけると近づいて来たとの事。

数も分るかも

実験のご褒美にいつも餌が5つ出てくるところ、ある時たまたま4つしか出なかった事があったとの事。

その時、イノシシは食べ終わっても「いつものように待機室に戻る」事をせず、残りの餌を探し始めたとの事。

そこで著者が慌ててもう一つ餌を出すとイノシシはそれを食べてようやく待機室に戻ったという。

二か月後に、今度は意図的に餌を4個にしてみたが、反応は前回同様だったという。

冷静な観察力

藪に逃げ込んでも実は隠れてこちらを観察している。

逃げたようで実は隠れて見てる

何気にこの習性が一番驚異的かも...

自分の経験で言えば、センサーライトが反応した後、闇の畑で遭遇したのもそういう事だろう。
「サンサーライトに驚いて一旦藪に隠れたが、どれだけ危険なモノか見極める為に待機して観察していた」のだろう。
だから、結果的にあの時畑まで出て行って鉢合わせた事は「正解」だったのだろう。
「センサーライト反応=人間が出てくる」という学習をさせたかもしれないから。

でもそれは、裏を返せば...
近々「かかし」でも作って立てようかと思っていたのだけど、そんなに冷静にじっくり観察されたら、すぐにニセモノと見破られそうだ...

やるならば例えば「遠距離からも確認できるようにライトアップする」とかして近距離でじっくり観察させない事が重要かもしれない。

「多様性の確保」の重要性

イノシシ研究をしていた著者から見ても、やはりイノシシは一頭ごとに性格が異なるという。
すぐに覚えるもの、飽きっぽいもの、粘り強いもの、好奇心旺盛、臆病者、仲間の真似ばかりするもの...

色々なイノシシがいる事が彼らの力になる

想像してみよう。
トタンを張った田んぼのまわりにイノシシの群れがやってきた。
年長者は色々な経験を積んで警戒心も強いのでイキナリ近づかない。
一方若者は好奇心が旺盛。
先にトタンに近づき探索。

運動神経の優れたやつ、鈍い奴色々いる。
トタンをヒラリと飛び越えるそばで何度チャレンジしてもダメな奴がいる。
中には探索好きがいて、丹念にトタンを鼻で探っている。

と、こいつが一部に穴を見つけた。
そこに鼻を差し入れてみると、動いた!
まんまと侵入に成功。

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これを見ていた別の一頭。
さっきから跳躍に失敗していた奴だ。
運動神経は鈍いが真似は出来る。
前の一頭に続いて首尾よく侵入成功。

最後は警戒して遠くから見ていたイノシシ。
仲間たちが危険もなく動き回っている。
それを見て慎重派も侵入。

イノシシの話から離れて人間の話になるが...

上記の話を人間に置き換えて考えればすぐ分る事だが「多様性が重要」というのは道徳の話では無い。

「群れが生き延びるのにその方が有利だから」
「結局トータルで見ると効率が良いから」

人間の中には頭ごなしに「これが正しい」と、考え方や価値観を押し付けて、「右へならえ」をさせたがるエライ人がいるけれど、結局それは戦略的には弱い事なのだと思う。

信じ難い適応力 肉食になったイノシシ

南米にはもともとイノシシがいなかったが、コロンブス以降の移民によって持ち込まれた。
しかし南米にはイノシシの餌になるような植物が少なかった。
それで虫や蛇、ネズミなどの小動物を食べるようになり、さらに動物の死肉、ついに家畜を襲うまでになった。
現在は放牧のヒツジが襲われる事もあると言う。

マジかよ...
でも、考えて見れば人間だって生物学的には主に植物食のチンパンジーと大して変わらない筈なのに、ほぼ「肉食」って人はいくらでもいる。

「適応力は人間にひけを取らない」って事か。
どこでも生きてけるな。

知識訂正 「山に居場所がなくて里に来たのではない」

定説として「人が植林した針葉樹の人工林ではドングリなどの餌が乏しくなり、それで山から獣が下りてくる」というものがある。
私もそれを信じて、以前別記事でその事にふれた

ところがこの本の著者が言うには「その説はクマには当たっていてもイノシシには当たらない」との事。

何故なら広葉樹林では届かなかった光が地面に届くようになり、地面にはシダなどの植物が茂ってくる。
イノシシはむしろそのような環境を好み、かえって繁殖率が高まるほどとの事。

そして、植林した木が育って光が差し込まなくなったとき、住みよい場所を求めて移動する事もあり、たどり着く先が耕作放棄地という事もあるとの事。

ふ~ん…そうなのか~
とは言え「餌が無くなって」の部分は間違いでも、植林が引き金になったのはどちらにせよ正しい結論ということか?

群か単独か

オスは単独行動をする。もしくは若いオスの場合は兄弟で行動する事もある。

一方メスは群れが基本。
だから「仲間がヤラレタ」事を目撃し学習する機会の多いメスの方が捕まえ難い。
との事。

ナルホド。
これを知ると、今まで家の畑に来ていた連中の雌雄も想像がつく。

「イノシシ家族」と思っていたのは全部メスの群れだったのかもしれない。
とすると、あの巨大個体は長い事生き延びている歴戦のつわものメスか?

ずっとイノシシと戦って(付き合って)きた日本人 ここ100年が特別だっただけ。

歴史についても少し書いてあって、それもまた興味深かった。

著者いわく
「ここ100年は日本農業史上、例外的に鳥獣被害が大きな問題にならなかった期間」
「鳥獣害があって当たり前。今、普通の時代に戻ってきた」

例えば1749年、八戸で「イノシシ飢饉」が起きた。
被害は一万五千石。3000人以上が餓死。

その頃八戸では焼き畑を行っていた。
焼き畑は2,3作毎に休耕(放置)する。
その間に畑が藪化し、クズ等のイノシシの大好物が繁殖。イノシシも増える。
(つまり現在の耕作放棄地と同じ状態)
そして冷害等が発生すると餌を求め作物を襲う...

等という苦労をずっと、江戸時代まではしてきた。

それが明治以降に大乱獲がはじまる。
ニホンオオカミは絶滅。
カモシカ、トキ、コウノトリなども絶滅寸前に。
イノシシも激減した。

さらに第二次大戦後、大規模な農地開拓が行われ、次々と人が山の中へ入っていった。
(食糧不足の解消と引揚者に就業場所を与える為)

このような流れが1970年以降に徐々に変わっていった。

就業の場の中心は農林業から工業やサービス業に。
人の動きは山から都市へ。

さらに減反政策で耕作放棄地が増えていく。

そして狩猟者の減少。

 

「ここ100年が特別だっただけ」というのは、この件だけでなく、近頃色々な事に関してそう思う。
一言で言えば「化石燃料という埋蔵金が出てきて、それを湯水の如く使って豪遊したカーニバルの時代」だったという事じゃないか。

「バブル」というと、日本では1980年代終わりの頃をイメージすると思うが、もう少し長い視点で見れば「ここ100年がバブルだった」のかもしれない。

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